超高輝度超新星SN 2006gyの正体を解明
【2020年1月31日 広島大学】
2006年にペルセウス座の方向約2億4000万光年彼方に出現した超新星「SN 2006gy」は、通常の超新星の10倍以上明るい「超高輝度超新星」と呼ばれる天体が知られる契機となった天体だ(参照:「理論上最大の恒星による、観測史上最大の超新星」)。
SN 2006gyは、超新星爆発で放出された物質ともとの星の周囲にあった物質とがぶつかる衝撃波から光を放っていると考えられている。そこで、超新星がかなり暗くなった時点での光を解析し、それまで周りの物質に隠されて見えなかった星の放出物質の痕跡を調べて、SN 2006gyの並外れた明るさの理由を探ろうとしてきた。
以前に広島大学の川端弘治さんたちが行った解析では、SN 2006gyの爆発400日後の後期スペクトルは当時観測的に知られていたどの超新星のスペクトルとも異なり、当時のあらゆる理論予測と一致しないという結果が得られていた。
独・マックス・プランク天体物理学研究所/スウェーデン・ストックホルム大学のAnders Jerkstrandさん、京都大学の前田啓一さん、川端さんの研究チームはこのSN 2006gyについて再度解析を行い、以前は正体不明だった放射輝線が、太陽の0.3倍以上の量の中性の鉄の放出に由来する可能性があることをつきとめた。
SN 2006gyの正体として従来提唱されてきた大質量星の爆発では、一般的には大量の鉄の放出はない。一方、白色矮星の爆発であるIa型超新星であれば、大量の鉄が放出される。ただし、高速膨張のために放出物質は低密度になり、鉄はほぼすべてイオン化されてしまう。中性の鉄からの放射が強くなるには、鉄が多く存在し、かつ通常の超新星の100倍以上もの密度が必要とされる。
もし、もともと秒速1万kmほどで膨張していた物質の速度が、星周物質との衝突によって秒速1500km程度まで減速されれば、物質の密度が300倍まで圧縮され、必要な条件が満たされる。Jerkstrandさんたちが、普通のIa型超新星が大量の星周物質に向かって衝突しながら膨張する現象の様子を理論的に調べたところ、確かに物質が減速し、爆発エネルギーの大部分が放射エネルギーに変換されて200~300日程度にわたり放出されることがわかった。
これらの性質は、後期スペクトルの性質のみならず、SN 2006gyの光度やその進化と見事に一致するものだ。SN 2006gyの正体がIa型超新星だとすると、これまで提唱されて来た大質量星の爆発というシナリオでは説明できない様々な観測結果を、矛盾なく説明できる。少なくとも一部の超高輝度超新星の起源はIa型超新星であることを示す成果である。
超高輝度超新星は明るいため遠方宇宙で発生したものでも検出できるので、遠方宇宙、すなわちはるか過去の宇宙の恒星形成史を解明する手がかりになると期待される。その理解のためには、どのような星が爆発したのかという情報が重要になり、今回の成果は超高輝度超新星を用いた遠方宇宙の探査における基礎構築につながるものだ。また、Ia型超新星へと至る元の天体の進化や、連星の衝突・合体現象についても未解明の問題が多く残されており、こうした研究の進展にも寄与することが期待される。
〈参照〉
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