重力波望遠鏡「KAGRA」が観測開始
【2020年3月3日 東京大学宇宙線研究所】
重力波とは、質量を持つ物体が運動するときに発生する「時空のゆがみ」が波となって光速で宇宙空間を伝わる現象で、1915年から1916年にかけてアインシュタインが発表した一般相対性理論からその存在が導かれた。この時空のゆがみはとても小さいため観測は非常に難しかったが、アインシュタインの予測から約100年後の2015年、アメリカの重力波望遠鏡「LIGO」が初観測に成功した(参照:「アインシュタインの予測から100年、重力波を直接検出」)。
地球で検出可能な重力波は、星の一生の最期である超新星爆発や、中性子星やブラックホールの連星の衝突合体といった激しい天体現象で生じると考えられている。2015年にLIGOが初観測した重力波は、2個のブラックホールが合体したときに発生したものだった。また、2017年にはLIGOとヨーロッパの重力波望遠鏡「Virgo」の共同観測で、中性子星連星が合体した際に生じた重力波が検出された。この現象では重力波に続いて到達したガンマ線や可視光線などの電磁波が世界中の様々な望遠鏡で観測され、「マルチメッセンジャー天文学」と呼ばれる新しい天文学が幕を開けた(参照:「連星中性子星の合体からの重力波を初検出、電磁波で重力波源を初観測」)。
これまで重力波望遠鏡はLIGO(2台)とVirgoだけだったが、2019年秋に大型低温重力波望遠鏡「KAGRA(かぐら)」が、世界で4台目、アジアでは初となる重力波望遠鏡として岐阜県飛騨市に完成した。その後、調整や検出感度を高めるための試験と調整が進められ、2月25日に重力波観測のための連続運転を開始した。
KAGRAは、LIGOやVirgoと同様に1辺の長さが3kmのL字型の2本の長い腕を持つ構造をしている。2つに分けたレーザーの光をそれぞれの腕で何度も往復させ、最終的に光の干渉を用いて、重力波によって引き起こされたわずかな空間の伸び縮みから重力波を検出するという仕組み(レーザー干渉計)だ。腕の両端に設置されたレーザーを折り返す鏡が重力波以外の原因によって振動することを、どれだけ抑えられるかが、検出器の感度向上の鍵となる。KAGRAでは、望遠鏡を岩盤のしっかりした山の地下に設置して地面振動の影響を軽減し、さらに鏡を摂氏マイナス253度まで冷却して熱振動による影響を軽減しており、この「地下にある」「鏡を冷やす」ことがKAGRAの大きな特徴である。
「2010年のプロジェクト開始後から研究チーム一丸となった準備をしてきましたが、ようやく重力波観測を始めることができました。このプロジェクトを支援していただいた多くの方々のおかげであり、あらためてこれまでのご支援に感謝いたします。感度はまだまだですが、引き続き感度向上の努力を続けてまいります」(東京大学宇宙線研究所長 KAGRA研究代表者 梶田隆章さん)。
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