突然姿を消した大質量星

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7500万光年彼方の矮小銀河で見つかっていた高光度青色変光星が突然観測できなくなった。大質量星としては異例な形で生涯を終えた可能性がある。

【2020年7月6日 ヨーロッパ南天天文台

みずがめ座の方向約7500万光年彼方に位置するキンマン矮小銀河(PHL 293B)は、星々の姿を分解して観測するには遠すぎるが、銀河全体の光を調べることにより、特徴的な星が一部に存在することは検出できる。2001年から2011年の間に様々な研究チームが行った観測はどれも、キンマン矮小銀河に太陽の約250万倍もの明るさの高光度青色変光星があり、なおかつ恒星としての生涯で後期の段階にあることを示唆していた。

キンマン矮小銀河
ハッブル宇宙望遠鏡が撮影したキンマン矮小銀河(提供:NASA, ESA/Hubble, J. Andrews (U. Arizona))

アイルランド・ダブリン大学トリニティカレッジのAndrew Allanさんたちの研究チームは、大質量星がどのように生涯を終えるかを研究する目的で、ヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡VLTと分光器「ESPRESSO」を使って2019年8月にキンマン矮小銀河を観測した。ところが、スペクトルの中に高光度青色変光星の痕跡はなく、数か月後に別の分光観測装置「X-shooter」を使ってもこの星を見つけることができなかった。

高光度変光星は不安定で、ときおりスペクトルと明るさが劇的に変化する。しかし、その場合でも銀河全体の光から星を検出することができるはずだ。今回のように完全に見えなくなってしまったことで研究者たちは当惑した。「これだけ質量の大きな恒星が明るい超新星爆発も起こさずに消えるのは、極めて異例なことだと言えるでしょう」(Allanさん)。

高光度青色変光星の想像図
高光度青色変光星の想像図(提供:ESO/L. Calçada)

Allanさんたちが過去の観測データを振り返ったところ、大質量星が観測されていたときは大きく増光した状態であり、それが2011年以降のどこかのタイミングで終息していたことが示唆された。こうした高光度青色変光星は、一生のうちに大規模な増光を起こす傾向があり、その際には急速に質量を失いつつ劇的に明るくなる。増光終了後の高光度青色変光星はやや暗い星へと変化するかもしれないし、部分的に塵に覆われる可能性もある。

高光度青色変光星が見えなくなってしまった原因として研究チームが考えるもう一つの可能性は、この星が超新星爆発を起こさずに崩壊してブラックホールになったというシナリオだ。しかしこれは珍しい現象であり、大質量星に関する現代天文学の常識からすれば極めて異例である。「本当にそうだとすれば、モンスターのような恒星がこんな具合に生涯を終えたことが直接検出された最初の例となるでしょう」(Allanさん)。

この星にどんな運命が降りかかったのかを確認するには、更なる研究が必要だ。2025年に稼働開始予定の欧州超大型望遠鏡(European Extremely Large Telescope; E-ELT)は、キンマン矮小銀河のような遠方銀河内の個々の恒星をとらえる解像度を持つことから、消えた高光度青色変光星のような宇宙のミステリーを解決してくれると期待されている。