リュウグウは炭素が多く黒い小惑星
【2020年7月15日 JAXA「はやぶさ2」プロジェクト】
小惑星探査機「はやぶさ2」に搭載されている光学航法カメラ(ONC:Optical Navigation Camera)は望遠カメラ1台と広角カメラ2台で構成されており、小惑星「リュウグウ」の科学観測と探査機のナビゲーションに用いられてきた。
「はやぶさ2」プロジェクトの巽瑛理さんたちの研究チームは2018年7月から2019年1月までの半年間に得られたONC観測データを解析し、ONCカメラの観測精度を確認する研究、およびリュウグウ表面のアルベド(反射率)と粒子の特性を調べる研究を行った。
まず観測精度については、ONCカメラで観測されたリュウグウの反射スペクトルと、チリのジェミニ南望遠鏡など地上で観測された高精度の反射スペクトルとの比較から、ONCの精度がじゅうぶん高いことが示された。
次に、位相角(太陽-天体-観測者がなす角度)に応じてリュウグウの明るさがどのように変化するかを調べたところ、位相角0度(観測者の真後ろに太陽があるような状態)あたりで急に明るさが増す「衝効果」が起こることが確認された。衝効果は月や小惑星「イトカワ」などでも見られる現象で、天体表面の凹凸や粒子径などの状態を反映するものと考えられている。
この位相関数(位相角と反射率の関係)をモデル化すると、同じ位相角で見たときに天体がどのようなアルベドを持つかを調べることができる。アルベドは物体の明暗を表す指標となるもので、リュウグウのアルベドは非常に低いことが示された。
アルベドの値から、天体の組成を推定することができる。リュウグウの標準反射率(位相角30度からのアルベド)はサンプルとして用いられたどの隕石よりも低いことから、リュウグウには炭素が豊富に存在すると考えられる。炭素がどのような形でリュウグウに含まれているかは不明だが、炭素質隕石には有機物の形で炭素が多く含まれていることが知られており、リュウグウでも同様に有機物として炭素が存在している可能性がある。
さらに、「位相赤化(Phase reddening)」効果と呼ばれる、位相角が大きくなるにつれて天体の色が見かけ上赤くなる効果も確認された。この効果は月やイトカワ、チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星(67P)などで観測されていたが、一般的に反射率の小さな天体では起こらないと思われていた現象だ。位相赤化が起こる理由は完全には解明されていないが、天体表面の粒子や微細構造による多重散乱が原因として考えられており、リュウグウの表面にも同様の粒子や微細構造があることが示唆される。
これらの反射率や位相赤化の特性は、NASAの小惑星探査機「オシリス・レックス」が探査中の小惑星「ベンヌ」に非常に近いことも明らかになっている。これまでにリュウグウとベンヌとは密度や形状などの類似点があることがわかっていたが、今回の結果から反射特性にも類似点があり、表面状態がよく似ているらしいことがわかった。一方でベンヌは含水鉱物が豊富にあるという相違点もあり、今回の新たな発見は謎を深めることにもなっている。
リュウグウからの試料は12月6日に地球に戻ってくる予定だ。今回の研究結果とサンプル分析から得られる結果との答え合わせが待ち望まれる。
〈参照〉
- JAXAはやぶさ2プロジェクト:ONCでわかった、炭素の多い黒いリュウグウ
- JAXA:小惑星探査機「はやぶさ2」の記者説明会(20/6/11) YouTube動画
- Astronomy & Astrophysics:Global photometric properties of (162173) Ryugu 論文
〈関連リンク〉
- 「はやぶさ2」:
- 星ナビ.com 「はやぶさ2」ミッションレポート
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