地球帰還後の「はやぶさ2」は2031年に小惑星1998 KY26へ
【2020年9月15日 JAXA はやぶさ2プロジェクト/文部科学省】
JAXA宇宙科学研究所の小惑星探査機「はやぶさ2」は、9月15日から地球帰還に向けた最終誘導の段階に入った。「はやぶさ2」は12月6日に地球に帰還し、小惑星リュウグウのサンプルを格納したカプセルをオーストラリアのウーメラ砂漠に向けて分離することになっている。カプセルを分離した後の「はやぶさ2」は軌道修正を行い、地球から離脱する。
地球圏を離れた「はやぶさ2」にはまだイオンエンジンの燃料が半分ほど残っているため、プロジェクトチームは「はやぶさ2」をさらに別の天体の探査に向かわせる「拡張ミッション」を行うことを検討し、目標天体の候補として2個の小惑星「2001 AV43」と「1998 KY26」を選定していた。
9月15日の記者説明会で、この2つの天体のうち1998 KY26を拡張ミッションの目標天体とすることが正式に発表された。もう一つの候補だった2001 AV43に向かうためには、金星で1回、地球で2回のスイングバイが必要で、太陽に約0.71auの距離まで近づくため、探査機の搭載機器が正常に動作する温度範囲を超える時期が出てくる。この時期にはイオンエンジンも運転できないため、温度などの条件面で探査がより実現しやすい1998 KY26の方が選ばれた。
1998 KY26は地球接近天体のサーベイプロジェクト「スペースウォッチ」で発見された小惑星で、地球接近小惑星(NEA)の一つだ。1998年に発見された直後には地球から約80万km(月までの距離の約2.1倍)の距離を通過している。反射スペクトルは「X型」というタイプに分類されていて、リュウグウやNASAの「オシリス・レックス」が探査中のベンヌなどに近い、広い意味での炭素質小惑星の仲間に入る可能性がある。
レーダーでの観測から、1998 KY26の直径は約30±10mと非常に小さく、10.7分というきわめて短い自転周期を持つことがわかっている。「はやぶさ2」が探査に成功すれば、探査機が到達した天体としては史上最小記録となる。
こうした直径数十mクラスの小惑星は、小惑星としてはかなり小さいが、地球に衝突すれば大きな被害が出ると予測される。2013年にロシアに落下したチェリャビンスク隕石は直径約17m、1908年にロシアで起こった「ツングースカの大爆発」の原因となった落下天体は直径約50mと推定されている。このクラスの小天体が地球に衝突する頻度は数百年に一度とされているが、天体としての性質や過去の地球に与えてきた影響についてはよくわかっていない。
そのため、「はやぶさ2」が1998 KY26をランデブー観測することは、地球史の解明に役立つだけでなく、地球に衝突する天体をいち早く発見して被害を回避する方法を研究する「プラネタリー・ディフェンス」の分野にとっても重要な意義がある。
「はやぶさ2」が1998 KY26へ向かう道のりは、太陽の周りを10年半かけて約11周する長い旅になる。途中、地球で2回スイングバイを行って軌道を変更し、2031年7月に1998 KY26に到着する予定だ。到着後はリュウグウの探査と同じく、天体のそばに滞在し、可能であれば降下観測やタッチダウンなども検討するという。ただし、自転がかなり速く遠心力が強い天体であるため、天体にターゲットマーカーを投下して目印にする、といった方法はおそらく使えず、実際に着陸が可能かどうかは未知数だ。
また、1998 KY26に向かう途中の2026年7月には、さらに別の小惑星「(98943) 2001 CC21」のフライバイ観測(天体のそばを通過しながらの観測)を行う。この小惑星は直径約700mとリュウグウより少し小さく、スペクトルは「L型」に分類される珍しいタイプの小惑星だ。炭素質隕石に含まれているCAI(高アルミニウムカルシウム含有物)というきわめて始原的な物質にスペクトルが似ていることから、この天体を間近で観測できるのも、太陽系の歴史の解明にとって重要な意義を持つという。
さらに、航行中には「はやぶさ2」のカメラを使って黄道光を長期観測したり、NASAの系外惑星探査衛星「TESS」で見つかった系外惑星候補の追観測を行う、といった活動も予定されていて、約11年という長いミッション期間を様々な科学観測に充てることが計画されている。
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