約100億年前の銀河たちが持つ分子ガス
【2020年10月1日 アルマ望遠鏡】
銀河は星々の大集団であり、その星たちは分子ガスが重力によって集まることで誕生する。つまり、星の原材料である分子ガスを調べれば、銀河がどのように星を誕生させて進化し、現在の宇宙を形作ったのかがわかる。
電波を発する分子ガスの観測は電波望遠鏡で行われるが、一度に多数の銀河を観測することは感度の面で難しいため、これまでは観測対象となる銀河をまず可視光線観測などをもとにして事前に選別していた。この方法では、特に明るい銀河や分子ガスを多く持つ銀河に観測が偏る可能性がある。
広島大学の稲見華恵さんたちの研究チームは高感度を誇るアルマ望遠鏡を使い、事前の選別をせずに銀河を包括的に調査するという観測研究を実施した。「ASPECS(The ALMA SPECtroscopic Survey in the Hubble Ultra-Deep Field)」と名付けられたこのサーベイプログラムでは、ハッブル宇宙望遠鏡が重点的に観測を行ってきた領域「ハッブル・ウルトラ・ディープ・フィールド(HUDF)」を観測範囲としている。
アルマ望遠鏡の観測では、銀河に含まれる一酸化炭素分子が放つ電波が主に検出された。その波長を詳しく測定すると、赤方偏移の度合いから天体までの距離を見積もることができる。これにより、HUDF内に存在する銀河の中でも、特に宇宙で最も星が活発に生まれていた約100億年前の宇宙(赤方偏移1.5)に存在したものに焦点が定められた。
事前の天体選別を行わなかったことによって、今までは大量のガスや塵を持つとは思われていなかった銀河においても、ガスと塵が検出された。さらに、星形成が活発な銀河では、ガスの総質量が星の10倍もあることがわかった。現在の宇宙で見られる銀河では星の方が大きな割合を占めることと比べると、星形成の最盛期にある銀河が非常に大量のガスを持っていることがわかる。
一方、HUDFのデータから銀河が存在することはわかっていても、星形成が穏やかでアルマ望遠鏡だけでは電波を検出できない領域もある。そのような銀河のある位置についてはヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡VLTの観測データも足し合わせ、微弱な分子ガスの電波もとらえることに成功した。
これにより、星の合計質量が天の川銀河の10分の1程度の小さな銀河では、星が多くなってもガスはそれほど減らないことがわかった。これは、星が多くなるほどガス質量が急激に小さくなる大型銀河とは異なる傾向だ。この傾向が遠方銀河で確認されるのは初めてで、宇宙にありふれた小さな銀河は大質量銀河と異なる生成過程をもつ可能性が示唆された。
〈参照〉
- アルマ望遠鏡:宇宙最盛期を支える銀河の原材料 ~約100億年前の銀河たちが持つ分子ガス
- The Astrophysical Journal:The ALMA Spectroscopic Survey in the Hubble Ultra Deep Field: Constraining the Molecular Content at log(M*/M⊙) ~ 9.5 with CO Stacking of MUSE-detected z ~ 1.5 Galaxies 論文
〈関連リンク〉
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