アルマ望遠鏡、赤ちゃん星から吹く風をとらえる
【2021年2月16日 アルマ望遠鏡】
生まれたての恒星である原始星は周辺を取り囲む円盤のガスを取り込むことで成長していくが、円盤の回転の勢い(角運動量)を失わない限り、ガスは原始星に落下していかない。この、円盤からガスが落下する仕組みについては不明な点が多かったが、ガスから回転の勢いを奪う原始星の風がアルマ望遠鏡によってとらえられた。
風が観測されたのは、オリオン座の方向約1300光年の距離に位置する原始星「HH 212」だ。年齢は4万歳(太陽年齢の約10万分の1)ほどと非常に若く、質量は太陽の約4分の1と考えられている。この原始星を取り巻く円盤の中心付近からは、強力なジェットが噴き出している。また、過去の観測で、円盤から噴き出す「円盤風」の存在が示唆されていた。
台湾・中央研究院天文及天文物理研究所のChin-Fei Leeさんたちの研究チームがアルマ望遠鏡でHH 212周辺に広がる塵、一酸化硫黄分子、一酸化ケイ素分子それぞれが放つ電波を観測したところ、円盤風の空間的な広がりが描き出され、細く絞られた強力なジェットとの衝突の様子がとらえられた。ジェットと円盤風の相互作用、および円盤風の根元の形状からは、原始星周囲の円盤における磁場の強さと分布を知る手がかりが得られた。
「アルマ望遠鏡の高い観測能力(解像度と感度)のおかげで、HH 212で以前から知られていた円盤風が円盤部分から磁力によって巻き上げられているものであることが確認されました。さらに、ジェットと円盤風が相互作用していることも初めて確認できました。相互作用によって作られた薄い殻がはっきりと見えています。この殻は、円盤風の根元の部分から、ジェットが作り出す遠く離れた衝撃波とをつないでいます」(Leeさん)。
この結果を理論モデルと比較したところ、原始星からの半径4~40天文単位の範囲(太陽系では木星の内側~冥王星くらいまで)の円盤から磁力でガスが巻き上げられる「磁気円盤風」がよく当てはまることがわかった。この円盤風によって回転の勢いが抜き取られ、ガスを円盤の内側へと輸送していると考えられる。
一方、ジェットは円盤の最内縁部の塵がない領域から放出されていて、その根元からガスが原始星に落下している。このジェットは円盤風と衝突して衝撃波を形成し、円盤風の中に空洞を作るとともに、その空洞の外側に一酸化硫黄分子の薄い殻を形成させている。
「ジェットと円盤風の相互作用に関する観測と理論モデルは、原始星を取り巻く円盤の大局的な磁場構造についての知見を得る重要で新しい道を切り拓いてくれます。惑星形成の最初期段階の研究にも基本的なインパクトをもたらします」(仏・パリ天文台 Sylvie Cabritさん)。
〈参照〉
- アルマ望遠鏡:赤ちゃん星が成長する仕組み:ガス円盤から回転の勢いを抜き取るガス流
- The Astrophysical Journal Letters:First Detection of Interaction between a Magnetic Disk Wind and an Episodic Jet in a Protostellar System 論文
〈関連リンク〉
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