塵のリングに隠された超大質量ブラックホール
【2022年2月24日 ヨーロッパ南天天文台】
ヨーロッパ南天天文台のVLT干渉計(VLTI)が、くじら座の方向約4700万光年の距離に位置する渦巻銀河M77(NGC 1068)に向けられ、中心核の超大質量ブラックホールを取り巻く塵のトーラス(ドーナツ状の構造)をとらえた。塵の構造はブラックホールを我々の視線から完全に遮るものであり、長年の議論に決着を付けるかもしれない。
(左)VLTがとらえたM77。(右)VLTIのMATISSEによる、M77の最内側領域。黒い点は超大質量ブラックホールが存在する可能性が一番高い位置、破線はトーラスの中心、実線は外側への塵の広がりを示す(提供:ESO/Jaffe, Gámez-Rosas et al.)
多くの銀河の中心には太陽の数百万倍から数十億倍の質量を持つ超大質量ブラックホールが存在する。その中には、周囲からガスや塵が流れ込んでいるものもある。ブラックホールへ落下する物質は、水力発電と同じように重力エネルギーを解放する。こうして生み出されたエネルギーによって、銀河中心部は銀河内の恒星を全て合わせたよりも明るく輝き、活動銀河核と呼ばれるようになる。
活動銀河核の表情は多様で、電波バーストを起こすものと起こさないもの、可視光線で明るく輝くものとそれほどでもないものがある。その理由として約30年前に提唱され、支持を集めている仮説が「統一モデル」だ。このモデルによれば、どんな活動銀河核でも、超大質量ブラックホールに引き寄せられたガスと塵がトーラスを形成するという基本構造は変わらない。多様性はトーラスの角度によるものであり、トーラスが地球に対して真上や真下を向いていれば明るい中心部が見える、真横を向いていれば隠れてしまう、というわけだ。
M77の活動銀河核は大人しいものに分類されるが、以前の観測では統一モデルを支持するかのように塵の雲がM77の中心部で検出されていた。しかし、その構造が超大質量ブラックホール周辺からの光を覆い隠せるものかについては疑念が残っていた。
オランダ・ライデン大学のVioleta Gámez Rosasさんたちの研究チームは、VLTIの赤外線分光観測装置「MATISSE」を使い、M77の中心部で塵が発する温度の分布をとらえることで、その構造を浮かび上がらせた。トーラスは確かに横を向いていて、活動銀河核統一モデルを裏付ける結果となった。 「MATISSが広範囲の赤外線を観測できるおかげで、塵の中を見通して温度を正確に計測することができました。巨大な干渉計であるVLTIのおかげで、遠く離れた銀河の中心で何が起こっているのかを目の当たりにできる解像度が得られるのです」(ライデン大学 Walter Jaffeさん)。
M77中心部の想像図。他の活動銀河核と同様に、銀河中心のブラックホールの周囲に薄い降着円盤があり、さらにその外側を塵とガスから成る厚いトーラスが取り囲んでいる。M77の場合、トーラスは地球から見るとブラックホールを完全に隠している。また、この活動銀河核では、ブラックホールを取り囲む降着円盤に対して垂直方向にジェットが噴出していると考えられている(提供:ESO/M. Kornmesser and L. Calçada)
〈参照〉
- ESO:Supermassive black hole caught hiding in a ring of cosmic dust
- Nature:Thermal imaging of dust hiding the black hole in NGC 1068 論文
〈関連リンク〉
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