「一番近いブラックホール」の存在、否定される
【2022年3月7日 ヨーロッパ南天天文台】
「HR 6819」(ぼうえんきょう座QV)は地球から約1000光年の距離にある星で、知られている中で私たちに最も近いブラックホールがここに存在するとされていた。
HR 6819にブラックホールがあるという説は2020年にヨーロッパ南天天文台(ESO)のThomas Riviniusさんたちの研究チームが発表したものだ。HR 6819からは2つの恒星スペクトルが検出されているため、少なくとも2連星であることはわかっていた。さらに、そのうちの1つが40日周期で変動していることから、「太陽の数倍の質量を持ち、光を発さない第3の天体」がこの星の近くにあり影響を及ぼしているのだと解釈された。そのような天体はブラックホールしかありえないというわけだ。この解釈の場合、残る1つの恒星はブラックホールを含む連星からずっと遠い所を回っていることになる。
これに対し、ベルギー・ルーベン・カトリック大学(研究当時)のJulia Bodensteinerさんたちの研究チームが異を唱えた。実はブラックホールは存在せず、2つの恒星が40日周期で互いのすぐ近くを回っているというのがBodensteinerさんたちの説である。この解釈を採りつつ観測されたスペクトルを説明するには、片方の星が相手の大気をはぎ取ってしまうという珍しい現象が起こっていると仮定する必要がある。
「ブラックホールを含む3連星」か「特殊な2連星」かを確かめるため、2つのチームは共同でHR 6819を新たに観測した。「2つのチームが求めているシナリオは明快で、全く異なり、適切な装置があれば簡単に識別できるものでした。この系に2つの光源があるという点では私たちの意見は一致していたので、問題はその2つがお互いのすぐ近くを回っているか(はぎ取られた星のシナリオ)、または遠く離れているか(ブラックホールシナリオ)でした」(Riviniusさん)。
ESOの超大型望遠鏡(VLT)とVLT干渉計による観測の結果、2つの光源は太陽から地球の距離の3分の1しか離れていないことがわかった。つまり、HR 6819系にブラックホールは存在しないということを意味する結果である。
HR 6819を構成する2つの星のうち、相手から外層を「吸血」した恒星はより速く自転するようになったと考えられる。「相互作用を経た直後の段階は長続きしないので、とらえるのは非常に困難です。それだけにHR 6819での発見はとても面白いものです。このような吸血が大質量星の進化、ひいてはそれに伴う重力波や劇的な超新星爆発といった現象にどのような影響を与えるかを研究する上で、完璧な観測候補となるのですから」(ルーベンカトリック大学 Abigail Frostさん)。
〈参照〉
- ESO:“Closest black hole” system found to contain no black hole
- Astornomy & Astrophysics:HR 6819 is a binary system with no black hole - Revisiting the source with infrared interferometry and optical integral field spectroscopy 論文
〈関連リンク〉
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