「一番近いブラックホール」の記録更新
【2022年11月10日 マックス・プランク天文学研究所】
米・ハーバード・スミソニアン天体物理学センターおよび独・マックス・プランク天文学研究所のKareem El-Badryさんたちの研究チームは、従来と異なる新しい手法を用いて、へびつかい座の方向約1560光年の距離に位置する、既知のブラックホールの中で地球に最も近いブラックホールを発見した。
これまでで最も近いとされていたブラックホールまでは約3000光年であり、その距離を半分程度縮めたことになる。2020年には約1000光年の距離にブラックホールが見つかったとする発表があったが、後に否定されている。
研究チームは、太陽のような恒星とブラックホールが互いの周りを回る連星系を探し求め、ヨーロッパ宇宙機関の位置天文衛星「ガイア」のデータを調べた。ガイアは膨大な数の恒星の位置を精密に測定している。その中には、時間とともに星の位置がぶれている事例が約17万件あった。このようなぶれは連星が回ることで生じている可能性がある。
このデータのなかから、恒星が見えざる天体に振り回されているように見える事例を探したところ、6つの候補が残った。これらの候補に対して他の観測データも合わせて分析したところ、「ガイアBH1」と名付けた天体だけはブラックホール連星の可能性が高いと判断された。そこで地上の大型望遠鏡を動員して追観測を実施し、ブラックホール抜きでは観測結果が説明できないとの結論に達したという。
「この4年間、ガイアBH1のような連星系を探し続けて、あらゆる方法を試してきましたが、どれもうまくいかなかったのです。ようやくその探索が実を結んだときは、有頂天でした」(El-Badryさん)。
天の川銀河には恒星質量ブラックホールがおよそ1億個も存在すると推定されているが、現在までの発見数はそれに比べごくわずかだ。既知のブラックホールのほとんどは、近くにある天体からガスを大量に取り込み、そのガスが高温になって発するX線などをとらえることで見つかってきた。ガイアBH1のように、周囲の天体を振り回す以外の活動を示さないブラックホールは数多く潜んでいるのかもしれない。
ブラックホールとともに新たな謎も見つかった。今回の観測結果によれば、ガイアBH1の質量は太陽の約10倍で、その周りを太陽に似た伴星が185.6日周期で公転している。ブラックホールになる前の恒星は、少なくとも太陽の20倍以上の質量を持っていたとされ、その寿命は数百万年しかなかったはずだ。仮に現在見えている伴星も同時に生まれていたのだとすれば、太陽のように一人前の恒星に成長してないうちに、すぐ近くで超巨星になった主星に飲み込まれたことだろう。生き残ったとしても、現状よりずっとブラックホールに近い軌道へ引きずり込まれていたはずだ。
この謎を説明するために、ガイアBH1系の進化についてはかなり特殊なシナリオが提案されている。たとえば、2つの星の距離は元々ずっと遠かったが、別の星との遭遇によって軌道が変わったという可能性がある。また、実はブラックホールが2つあり、伴星の軌道に比べはるかに近い距離で互いの周りを回っているとも考えられるという。大質量星が2つあれば、お互いが超巨星になるのを抑制しつつブラックホールに進化することができるからだ。将来のさらなる観測によって、これらのシナリオの可否を検討することができるだろう。
〈参照〉
- Max-Planck-Gesellschaft:New method finds black hole closest to Earth - The finding promises numerous similar discoveries
- Gemini Observatory:Astronomers Discover Closest Black Hole to Earth
- MNRAS:A Sun-like star orbiting a black hole 論文
〈関連リンク〉
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