天の川銀河の腕と腕の間にも星の材料

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天の川銀河において、従来あまり観測されてこなかった腕と腕の隙間にも星の材料となるガスが存在することがわかり、腕内と同じ過程で星が形成されている証拠が見つかった。

【2022年4月4日 国立天文台 野辺山宇宙電波観測所

天の川銀河は数千億個の恒星からなる棒渦巻銀河の一つであり、円盤状の構造をしていて、その中で星や星の材料が渦巻き腕に沿って集まっている。とくに質量が太陽の10倍を超える大質量星は、材料となる星間ガス雲が集中する腕の中で誕生すると考えられてきた。

近年、位置天文衛星「ガイア」による観測で、天の川銀河の腕と腕の隙間(スパー)にも大質量星が存在することが示されている。しかし、そうした大質量星の材料となるような星間ガス雲をスパーで詳しく調べようとする観測は行われていなかった。

名古屋市科学館の河野樹人さんたちの研究チームは野辺山45m電波望遠鏡を用いて、太陽系に最も近い腕間領域である「局所スパー」を観測した。観測した空の領域は約27平方度(満月約140個分に相当)で、一酸化炭素分子の同位体 12CO、 13CO、 C18Oがそれぞれ発する電波を観測することにより、星形成の母体となる高密度分子ガス雲を一挙にとらえた。

天の川銀河の想像図/こぎつね座OBアソシエーションと太陽系の位置関係
(左)天の川銀河の想像図。太陽系(黄色の丸)は銀河中心から約2万6000光年離れたところに位置する。(右)こぎつね座OBアソシエーション(赤い星)と太陽系の位置関係(提供:国立天文台 野辺山宇宙電波観測所リリース、以下同)

観測の結果、およそ100光年にわたる巨大なひも状(フィラメント)構造の分子ガス雲が数多く存在することが明らかになった。河野さんたちは、こうした巨大フィラメント状分子雲が腕間における星形成に深く関わっていると考えている。

中でも、天の川銀河のいて腕とオリオン腕のちょうど間の領域、約6500光年の距離に位置する大質量星形成領域「こぎつね座OBアソシエーション」はフィラメント構造が顕著だった。

腕間領域の分子ガス雲の分布/こぎつね座領域の巨大フィラメント状分子雲
(上)天の腕間領域の分子ガス雲の分布。12COを赤、13COを緑、C18Oを青で表している。(下)こぎつね座領域の巨大フィラメント状分子雲

このガス雲の位置には速度の異なる塊があり、それらが重なるところには散開星団NGC 6823が存在している。ガス雲どうしの衝突が星団形成のきっかけとなったことを示唆する結果だ。

こぎつね座OBアソシエーションの分子ガス雲の解析結果
こぎつね座OBアソシエーションの分子ガス雲の動き。背景画像が近づく分子ガス雲、青い等高線が遠ざかる分子ガス雲の空間分布を表す。散開星団NGC 6823の大質量星の位置が十字で示されており、2つの分子ガス雲が重なった領域に大質量星が集中していることがわかる

渦巻き腕の中で分子雲同士の衝突で星団が形成される可能性はこれまでに指摘されていたが、同じことが局所スパーで観測されたのは今回が初めてだ。今後、天の川銀河全体の分子ガス雲をさらに詳細に解析することで、腕内と腕間における分子ガス雲の性質の違いを明らかにできると期待される。

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