恒星を飛び出す超高速プロミネンス

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オリオン座の変光星V1355で、大規模なフレアに伴うプラズマの放出現象、プロミネンスが観測された。その規模は太陽と比べ桁違いで、噴出の速度は星の重力を振り切るほど高速だった。

【2023年5月8日 国立天文台ハワイ観測所岡山分室

太陽の表面では時おり「フレア」と呼ばれる爆発現象が起こり、それに伴ってプラズマの塊が高速で噴き出す「プロミネンス」が見られる。プロミネンスの速度が十分に速ければ、プロミネンスは太陽の重力を振り切り、上層大気であるコロナの一部とともに飛び出してしまう。こうして起こる「コロナ質量放出(CME)」は周囲の宇宙空間にも影響を及ぼし、私たちにも通信障害や大規模停電などの形で被害を与えうる。

太陽以外の星に目を向けると、太陽フレアの10倍以上の規模である「スーパーフレア」を起こす恒星も見つかっている。こうした星でも大規模なCMEが起こり、周囲の惑星系に大きな影響を与えているはずだ。ただ、太陽以外の星でプロミネンスが検出された例はあるが、星の脱出速度を超えて外へ飛び出すほどの高速プロミネンスは観測されたことがなかった。

京都大学の井上峻さんたちの研究チームは、太陽系から約400光年の距離にあるオリオン座V1355星を観測し、スーパーフレアに伴う超高速プロミネンスを検出することに成功した。

スーパーフレアと巨大プロミネンスの想像図
オリオン座V1355星で発生したスーパーフレアと巨大プロミネンスの想像図。右は伴星(提供:国立天文台)

オリオン座V1355星は近接連星系で、主星が極めて活発な磁気活動を示していることが知られている。井上さんたちは2020年12月下旬にこの星を京都大学岡山天文台のせいめい望遠鏡で分光観測し、同時にNASAの系外外惑探査衛星TESSによる測光観測も実施した。

その結果、日本時間の12月19日23時30分ごろから3時間ほど、オリオン座V1355星が増光している様子がとらえられた。この増光はフレアによるものであり、しかも太陽で起こりうる最大級のフレアと比べ7000倍ものエネルギー規模を持つ、文字通り桁違いのスーパーフレアだったと判明した。

また、スーパーフレアの間、オリオン座V1355星から光の一部が波長の短い(青い)方に偏っていたことがわかった。これはドップラー効果によるもので、プロミネンスが高速で私たちの方向へ動いていたことを示すものだ。その速度は秒速1600kmで、星を脱出するのに必要な速度(350km/s)を大きく超えていた。さらに、プロミネンスの質量はこれまでに太陽で観測された最大級のプロミネンスの100倍にも上り、観測史上最大だったことが明らかになった。

星の光の強さの時間変動と、スーパーフレアによるHα水素線の増光スペクトル
(上)スーパーフレアの発生前後の星の光の強さの時間変動。上段は星の明るさ、下段は星のHα線の強さの変化を示す。スーパーフレアで星全体の明るさが約2%増加したことがわかる。(下)スーパーフレアによるHα水素線の増光スペクトル。Hα線の短波長側(青側)に、プロミネンス噴出によって生じた青方偏移した超過成分が見られた(提供:国立天文台ハワイ観測所岡山分室リリース)

今回の結果は、太陽以外の恒星におけるCMEの確実な証拠を初めてとらえたものだ。また、恒星の活動が周囲の惑星環境へと影響を与える「宇宙天気現象」の最極端なケースを見せるものでもある。研究チームは今後X線や電波での観測を行い、プロミネンス噴出とCMEを多波長で同時に検出することで、恒星における大規模なCMEの物理機構の理解を深めたいとしている。

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