宇宙で最も低温の天体、原始惑星状星雲「ブーメラン星雲」
【2017年6月12日 アルマ望遠鏡】
ケンタウルス座の方向5000光年彼方の原始惑星状星雲「ブーメラン星雲」は、太陽の数倍重い赤色巨星が一生を終えた後に周囲に作られた天体だ。星を作っていたガスが宇宙空間に広がり、そのガスが中心に残された高温の白色矮星に照らされて光るのが惑星状星雲だが、ブーメラン星雲はその過程の最初期にあたる。
ブーメラン星雲は宇宙で最も低温の天体であることが知られている。星雲が1995年に初めて観測された際、絶対温度2.7度で宇宙を満たしている宇宙マイクロ波背景放射の電波を星雲が吸収していることがわかった。この電波を吸収できるということは、ブーメラン星雲の温度がこれより低いということを意味している。しかし、なぜこれほど冷たい天体でいられるのかは長年の謎であった。
NASAジェット推進研究所のRaghvendra Sahaiさんたちの研究チームはアルマ望遠鏡を使ってブーメラン星雲を観測し、ブーメラン星雲の中心部の様子をはっきりと描き出した。そして、星雲のガス流の広がりや年齢、質量、運動エネルギーを正確に見積もるための手がかりを得た。
アルマ望遠鏡の新しいデータは、重い赤色巨星の外層のほとんどが猛烈なスピードで宇宙空間に飛び出したことを示していた。中心星の両極方向に伸びたガスの広がりは、差し渡し3兆km(太陽から海王星の700倍程度)以上にも伸びている。また、極低温の星雲は両極方向に伸びたガスよりもさらに10倍以上外側の範囲まで広がっている。
こうした複雑な構造は、星雲を作った元の星が連星系を成していたことに関係があるとみられ、研究チームでは次のような形成シナリオを推測している。まず、年老いて膨らんだ連星の主星に伴星が飛び込み、主星のガスが一気に放出されて高速で広がる星雲を作り出す。主星の外層の中を進む伴星は周囲から摩擦を受けるため、どんどん主星の中心に近づいていき、やがて主星の中心部と合体する。この時に、連星系を取り巻くガスの円盤が作られ、両極方向に細く伸びるガス流が噴き出したと考えられる。
アルマ望遠鏡で見えた細長いガス流は、この最後の過程をとらえたものだろう。低温のガス流は単独の星が放出できるものよりも10倍も速い速度で膨らんでおり、絶対温度0.5度以下という極低温が実現したと考えられる。「たくさんの物質をこれほどの速度で噴き出させるためには、1つの星のエネルギーでは足りず、2つの星の重力エネルギーを使うしかありません。このように考えれば、謎に満ちた極低温ガス流の成因を説明できるのです」(Sahaiさん)。
こうしたメカニズムで宇宙最低温の天体となったブーメラン星雲だが、その温度はゆっくりと上昇している。極低温天体は宇宙にはありふれているのかもしれないが、冷たい温度でいられる期間はごくわずかのようだ。
〈参照〉
- アルマ望遠鏡:宇宙で最も低温な天体の謎にアルマ望遠鏡が迫る
- The Astrophysical Journal:The Coldest Place in the Universe: Probing the Ultra-cold Outflow and Dusty Disk in the Boomerang Nebula 論文
〈関連リンク〉
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