スーパーコンピューター「京」が解き明かす天体衝撃波の3次元構造
【2017年10月2日 千葉大学/東京大学/国立天文台/ポスト「京」】
宇宙には宇宙線と呼ばれる高エネルギーの荷電粒子が飛び交っている。冷たいプラズマ中の荷電粒子がどのようなメカニズムで高いエネルギーを持つ宇宙線へと変化するのかという謎は、宇宙線の発見から100年以上たった今でも未解明の問題だ。
千葉大学の松本洋介さんたちの研究グループはスーパーコンピューター「京」を用いてプラズマについての計算を行い、超新星爆発等によって発生する強い天体衝撃波の3次元構造を世界で初めて明らかにした。松本さんたちは約1兆個のプラズマ粒子の運動を追跡し、冷たいプラズマがどうやって宇宙線のエネルギーまで加速されるのかという宇宙線誕生過程の解明に大きく近付く成果を得た。このような計算は超大規模数値実験であるため、これまでは限られた条件下でしか加速メカニズムの性質を探ることができなかった。
今回の研究ではペタ(1015 )バイトにも上る膨大なデータの解析により、冷たい電子がほぼ光速で運動する相対論的なエネルギーまで加速する様子を示すことに成功した。その結果、冷たいプラズマ中の電子は衝撃波と相互作用する過程で、波の形が揃った状態(コヒーレント)の電場の波に捕捉されながら加速されるサーフィン加速、衝撃波面を横滑りしながら衝撃波面近傍の強い乱流磁場に繰り返し散乱されて加速する統計的加速(ドリフト加速)の2段階の加速を経ることがわかった。
この様子から、衝撃波面近傍で卓越する強い乱流磁場によってドリフト運動中の電子は散乱され、多くの粒子が下流へ流される間も上流側に留まり加速し続ける粒子の存在が明らかになった。この強い乱流磁場により高エネルギー粒子を衝撃波面近傍の加速領域に長時間閉じ込めることができるため、冷たいプラズマと宇宙線粒子をつなげる有望な加速メカニズムとして期待される。
冷たいプラズマから宇宙線に変化する粒子の割合など加速効率の問題はまだ残されており、それらを明らかにするためには、今回と同様の大規模な実験を複数回繰り返す必要がある。膨大なデータの解析は困難な作業だが、宇宙線の起源を明らかにできると期待される。
〈参照〉
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