大マゼラン雲で複雑な有機化合物を発見
【2018年2月5日 アメリカ国立電波天文台】
天の川銀河から約16万光年の距離にある「大マゼラン雲」は不規則銀河に近い渦巻銀河で、数百億個の星からなる矮小銀河でもある。この大マゼラン雲の星形成領域「N113」には大質量星が多く含まれ、銀河中でガスが最も豊富な領域の一つだ。NASAの赤外線宇宙望遠鏡「スピッツァー」とヨーロッパ宇宙機関の赤外線天文衛星「ハーシェル」による観測で、N113には原始星が驚くほどたくさん集まっている領域が見つかっている。
NASAゴダード宇宙センターのMarta Sewiłoさんたちの研究チームが、この領域の化学組成やダイナミクスをより深く知るためにアルマ望遠鏡で観測を行ったところ、N113の中に「ホットコア」と呼ばれる高密度領域が2つ見つかった。ホットコアは生まれたばかりの原始星が中心に存在する「恒星の胚」のような領域だ。
さらにSewiłoさんたちは、これらのホットコアから放射されるミリ波の中に「メタノール (CH3OH)」、「ジメチルエーテル (CH3OCH3)」、「ギ酸メチル (CH3OCHO)」といった複雑な分子の輝線スペクトルが含まれている確かな証拠を見つけた。メタノールは過去の観測でも見つかっていたが、それ以外の2種類の分子の発見は前例がなく、天の川銀河の外で検出された分子としては最も複雑なものだ。
6個以上の原子からなる複雑な有機分子は、地球上の生物にとって、また宇宙のどこかにいるかもしれない地球外生命にとっても、生存に不可欠な分子を作る基本材料の一部となる。メタノールは比較的単純な化合物だが、これも今回見つかったような複雑な分子の材料として重要な物質だ。
しかし、大マゼラン雲は炭素や酸素、窒素といった重元素(水素、ヘリウムより重い元素)が少ない、化学的には「原始的」な場所だ。大マゼラン雲のような矮小銀河は、質量が小さいために星形成のペースが強く抑えられ、若いころの組成を維持していると考えられる。このため、大マゼラン雲には複雑な炭素系分子はわずかな量しか存在しないと考えられており、これまでの観測でもそのような分子はあまり見つかってこなかった。
重元素が少ないという大マゼラン雲の性質は誕生直後の宇宙の環境と共通している。このことから、今回の観測によって、宇宙史の初期段階で複雑な有機分子がどう作られるかといった問題に対する手がかりが得られるかもしれない。もし、複雑な分子が原始星の周りで容易に作られるなら、その分子は壊されずに存在し続けて、原始惑星系円盤の一部になる可能性がある。そのような分子が彗星や隕石によって原始の地球に運ばれ、地球上での生命進化を活性化させる役割を果たしたかもしれない。
Sewiłoさんたちは、大マゼラン雲のような化学的に原始的な環境でも複雑な有機分子は形成されうると推測しており、生命を生み出すための化学的な枠組みが宇宙の歴史の比較的初期に存在していたかもしれないと考えている。
〈参照〉
- アメリカ国立電波天文台:Stellar Embryos in Nearby Dwarf Galaxy Contain Surprisingly Complex Organic Molecules
- The Astrophysical Journal Letters:The detection of hot cores and complex organic molecules in the Large Magellanic Cloud 論文
〈関連リンク〉
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