アルマ最初の科学観測で、フォーマルハウトの環の詳細が明らかに
【2012年4月18日 国立天文台/ヨーロッパ宇宙機関】
昨年9月に初期観測を開始したアルマ望遠鏡。公募観測による最初の成果が発表され、惑星の存在の有無に注目が集まっていたフォーマルハウトの周囲の環について、2つの惑星の重力で形状が整えられていることがわかった。また、赤外線天文衛星「ハーシェル」の観測から、この円盤の塵は彗星の大量衝突からできているという可能性も発表された。
みなみのうお座の方向25光年かなたにある1等星フォーマルハウトは、、太陽の約2倍の質量で、生まれて数億年という比較的若い恒星だ。その周囲を取り囲む塵の環を、南米チリにある大型電波望遠鏡「アルマ」が撮影した。この環を対象とした電波観測としてはこれまでで最も鮮明なもので、環の形状がくっきりととらえられている(画像1枚目)。ハッブル宇宙望遠鏡の可視光画像では光の圧力で移動する細かい粒子も映し出されていたが、電波観測では、移動しにくい直径1mm程度の塵の分布がわかるので、本来の環の構造が明らかになっている。
2011年9月から10月にかけて観測を行ったアーロン・ボレイさん(米フロリダ大学セーガン・フェロー)らのグループは、得られた画像とコンピュータシミュレーションとを比べ、環の内側と外側にある惑星の重力で環の形状が細く整えられていることを明らかにした。惑星の質量はこれまで考えられていたよりずっと軽く、火星(地球の約1割)から地球の約3倍の間という結果になった。
この塵の環では2008年にハッブル宇宙望遠鏡が惑星らしきものをとらえており、「系外惑星を直接観測した世界初の例」として話題になった(参照:2008/11/14ハッブル宇宙望遠鏡、系外惑星を初めて撮影)。その後の赤外線観測で何も見つからなかったために惑星の存在に疑問を投げかける研究結果も最近発表された(参照:2012/1/30 世界で初めて直接撮像の系外惑星「フォーマルハウトb」は惑星ではなかった?)が、惑星が想定よりも小さかったために見つからなかったのだろうと研究者たちは考えている。
今回の観測で、この環はこれまで考えられていたよりもずっと細く薄いことがわかった。環の幅は太陽〜地球の距離(約1億5000万km)のおよそ16倍で、厚みはその約7分の1。環の半径は、太陽〜地球の距離のおよそ140倍もある。これは太陽〜冥王星の距離の約3.5倍という巨大さだ。この環に近い軌道を持つ2つの惑星は、中心星であるフォーマルハウトからはるか遠くにあり、これまでに発見された普通の星を回る惑星としては最も冷たい惑星といえる。
未だ建設半ばであるアルマ望遠鏡は、完成時の4分の1以下のアンテナ数にして、これまでの電波観測では見ることのできなかった環の構造をはっきりと描き出すことに成功した。
フォーマルハウトの円盤の塵は一日に数千回もの彗星衝突で作られる?
ヨーロッパの赤外線天文衛星「ハーシェル」によるフォーマルハウトの観測研究についても、アルマ望遠鏡の成果とほぼ時を同じくして発表された。
Bram Ackeさん(ベルギーのルーヴェン・カトリック大学)らによる観測では、数千分の1mm程度の固体微粒子が発する赤外線がとらえられている。従来のハッブル宇宙望遠鏡の可視光観測では、粒子はもっと大きいと思われていた。
これらの粒子が、彗星が放出する塵のようなふわふわした物の集合体とすれば反射量と温度の両方において観測結果と一致するが、このぐらいの大きさの粒子は、中心星であるフォーマルハウトからの光によってすぐに環の外側に吹き飛ばされてしまう。そこでAckeさんらは、環の中で天体が次々に衝突することで細かな粒子が供給されつづけている、という解を見出した。
この仮定では、10kmサイズの彗星が1日あたり2つ衝突するか、1kmサイズの彗星が2000個衝突して粉々に砕け散るということになり、この発生割合を実現するには、環の中に数千億〜数十兆個もの彗星が存在するということになる。これは、私たちの太陽系のはるか外側を取り囲む「オールトの雲」に存在するとされる数とほぼ同じだ。オールトの雲は、太陽がフォーマルハウトと同じくらいの年齢の時に周囲の円盤から飛び出した物質で形成され、長周期彗星(200年以上の公転周期を持つもの)や非周期彗星(太陽に接近するのが1度きりのもの)の故郷と考えられている。