原始星から噴き出す2種類のガス流の起源

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アルマ望遠鏡による原始星の観測から、星から両極方向に噴き出す2種類のガス流の構造が詳細にとらえられ、低速で広がりを持つアウトフローのほうが、細く絞られた高速のジェットよりも先に放出され始めたという説を支持する結果が得られた。

【2019年3月1日 アルマ望遠鏡国立天文台九州大学

太陽のような星は、宇宙に漂うガス雲が自らの重力によって収縮することで作られる。収縮するガスの中心には原始星(赤ちゃん星)が生まれ、その重力で周囲のガスがさらに引き付けられて原始星が成長する。

一方、原始星に引かれて回転しながら落下してきたガスの一部は、両極方向にガス流として噴出する。つまり、星の最終的な質量は、原始星が重力で集めてきた物質と、そこからガス流として流れ出してしまった物質とのバランスで決まることになる。ガス流として失われる物質の量やガス流が形成される仕組みを明らかにすることは、星の質量の決定メカニズムを理解するうえで欠かせないものだ。

原始星から噴き出すガス流には、一般に低速のもの(アウトフロー)と高速のもの(ジェット)があることが知られている。アウトフローは原始星から広い角度に広がりながら放出されるのに対して、ジェットは細く絞られていることが特徴だ。こうした2種類のガス流が作られる仕組みとしては、

  • まず原始星周辺から噴き出す高速のジェットが周囲のガスを巻き込みながら進むため、巻き込まれたガスがアウトフローとして見えるという説(巻き込み説)
  • 高速のジェットと低速のアウトフローが原始星周辺の別の場所から独立に噴き出すという説(独立説)

が提唱されてきたが、従来の観測では、どちらが正しいかを判定することはできていなかった。

九州大学の松下祐子さんたちの研究チームはアルマ望遠鏡で、オリオン座の方向約1250光年彼方にある原始星「MMS5/OMC-3」から流れ出すガスに含まれる一酸化炭素分子が放つ電波を観測した。その結果、原始星から東西方向に噴き出すガス流の構造を詳細に描き出すことに成功した。さらに、電波のドップラー効果を利用してガス流の速度を分析し、低速のアウトフローと高速のジェットが存在することを明らかにした。

原始星「MMS5/OMC-3」から噴き出すジェットとアウトフロー
原始星「MMS5/OMC-3」から噴き出すガス流の広がり(擬似カラー画像)。オレンジ色は低速ガス流(アウトフロー)、青色は高速ガス流(ジェット)を表す(提供:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Matsushita et al.)

「見えているガス流れの長さと速度から逆算すると、ジェットはおよそ500年前、アウトフローはおよそ1300年前に出始めたと考えられます」(松下さん)。これらは、ジェットやアウトフローが非常に若い段階にあることを示している。

さらに詳細な分析から、アウトフローとジェットが放出される方向が17度異なっていることもわかった。同様の例はこれまでもいくつかあったが、いずれもジェットが大きく成長した後のものであり、原始星の歳差運動によってジェットが傾いたという可能性が排除できない。一方でMMS5/OMC-3の場合はジェットが非常に若く、その構造からも歳差運動の影響を受けたとは考えにくい。

これらの観測結果は、ジェットとアウトフローがそれぞれ独立に、原始星周辺から噴き出している可能性が高いこと、つまり「独立説」のほうが説明に合うことを示唆している。「巻き込み説」はジェットのほうが若いことと合致せず、軸の傾きについても説明がつかない。

また、観測結果は、独立説に基づくシミュレーション研究の結果ともよく一致している。「独立説では、アウトフローが原始星の周りに存在するガス円盤の外側から、ジェットが円盤の内側から出ると考えます。円盤の回転は外側ほどゆっくりになるため、外側から出るアウトフローのほうが低速になるのです。内側と外側で円盤の向きが異なっていれば、ジェットとアウトフローの放出される方向がずれることもあり得ます」(九州大学 町田正博さん)。

「ジェットが噴出した直後の現象をとらえたことで、アウトフローとジェットそれぞれの噴出のメカニズムを考察することができました。今後は、アウトフローとジェットが同時に見られる他の天体との比較や、アルマ望遠鏡でのより高解像度な観測・磁場の観測を取り入れ、さらに詳細にガス流の内部構造を明らかにしていきたいと思います」(松下さん)。

MMS5/OMC-3の想像図
MMS5/OMC-3の想像図。中央に位置する原始星から細く絞られたガス流と幅の広いガス流の2種類が噴き出している(提供:国立天文台)

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