ヒルズボロ隕石から始原的な炭素質小惑星における塩水環境の痕跡を発見

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2024年にアメリカに落下したヒルズボロ隕石中から、塩分を多く含む流体の影響を受けた物質が見つかった。隕石の母天体である小惑星の表層付近に、かつて塩水が関与する環境が存在していたことを示唆する発見だ。

【2026年8月14日 東京科学大学

探査機「はやぶさ2」と探査機「オシリス・レックス」がそれぞれ地球に持ち帰った小惑星リュウグウと小惑星ベンヌの試料からは、生命の材料となるアミノ酸や糖、核酸塩基などの多様な有機物が検出されている。また、かつて両小惑星の母天体に水が存在した証拠(含水鉱物)や、液体の水が存在する環境でアミノ酸を合成する反応が起こっていた証拠なども得られている(参照:「リュウグウ試料からDNA・RNAを構成する全5種の核酸塩基を検出」「ベンヌ試料から核酸塩基と高濃度の尿素を検出」)/「リュウグウでアミノ酸が生成された痕跡」)。こうした物質が生命材料として地球にもたらされた可能性があり、小惑星やその破片である隕石に含まれる有機物や水を調べることは、海や生命の起源を探るうえで重要だ。

古代の地球に隕石が核酸塩基を運んだことを表す概念図
古代の地球に隕石が核酸塩基を運んだことを表す概念図(提供:NASA Goddard/CI Lab/Dan Gallagher

主にケイ酸塩鉱物(岩石の成分)からできる石質隕石のうち、最も始原的な「CM炭素質コンドライト」は水や有機物を多く含み、原始地球に生命の原材料をもたらした候補と考えられている。しかし、その有機物がどのようにできたのかはよくわかっていなかった。

2024年7月16日の日中、米・ニューヨーク市で火球とソニックブームが観測され、ニュージャージー州の民家の屋根を突き破って隕石が落下した。大都会で目撃されたことで一般市民からも注目を集めたこの隕石は約0.91kgもあり、「ヒルズボロ隕石(Hillsborough meteorite)」と命名された。

ヒルズボロ隕石の破片
(左から)2024年7月16日昼間に観測された火球、落下地点の様子(壊された住宅の屋根をそれぞれ外と内から見ている)、ヒルズボロ隕石の破片。住宅の所有者が落下直後の破片を使い捨て手袋とアルミホイルを用いて回収し保管したことから、地上での汚染を最小限に抑えた状態で解析することが可能となった(提供:Peter Jenniskens et al. (2026)(CC BY 4.0 に基づき改変して作成))

米・SETI研究所/NASAエイムズ研究センターのPeter Jenniskensさんと東京科学大学の癸生川陽子さんを中心とする国際研究チームは、このヒルズボロ隕石を回収して詳細な解析を行った。

まず、岩石学的な分析から、ヒルズボロ隕石はCM2炭素質コンドライトよりも強い水質変成を受けた部分を含んでいて、強い変成により原組織がほぼ失われている「CM1」と「CM2」との中間にあたるCM1/2炭素質コンドライトであることがわかった。

また、隕石中に塩に富む小さな領域も認められた。これは母天体表層付近で液体の水が蒸発し、塩類が濃縮した環境に由来する可能性がある。CM型炭素質コンドライト隕石に塩類が確認されたのは今回が初めてで、隕石を生み出した原始小惑星の表面について新たな知見をもたらす発見である。研究チームは塩鉱物の同定を進めるとともに、塩類が見つかっているリュウグウとベンヌの試料との比較も行っている(参照:「リュウグウ粒子から炭酸・塩が溶け込んだ水を発見」「リュウグウの砂つぶに水の変遷史を示す塩の結晶を発見」)。

成分分析では隕石に1.8%の炭素(C)と0.07%の窒素(N)(重量比)が検出され、CM炭素質コンドライトに典型的な炭素・窒素の安定同位体組成の特徴が示された。さらに、多様な可溶性有機化合物やアミノ酸も検出された。アミノ酸の組成は、中程度の水質変成を受けたCM2コンドライトに見られるものと類似していたが、可溶性有機化合物の組成解析からも、岩石学的分析と同様に、この隕石が比較的強い水質変成を受けたことが確認された。

ヒルズボロ隕石
(左)ヒルズボロ隕石の断片の外観、(右)内部の塩に富む部分。ヒルズボロ隕石の破片には、衝突時に割れた断面や、地球大気を高速で通過した際に形成された溶融皮殻が見られる(提供:東京科学大学リリース)

これらの結果は、ヒルズボロ隕石の母天体であるCM型天体が、水‐鉱物‐有機物相互作用を通して、アミノ酸やカルボン酸などを含む多種多様な分子組成に化学進化したことを示している。また、検出された有機化合物の多くは鉱物との相互作用を伴う反応によって生成されたと考えられ、母天体内部での塩水の流体による化学反応が複雑な有機分子の形成を促した可能性もある。これらの有機化合物が塩水環境で形成されたものか、あるいは他の天体との衝突などに伴う衝撃過程に由来するものかの判別は、今後の検討課題だ。

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