大質量星の連星系が作り出した宇宙の大蛇アペプ
【2018年11月27日 ヨーロッパ南天天文台/ニューヨーク大学】
ヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡「VLT」に搭載されている中間赤外線分光撮像装置「VISIR」を使った観測から、じょうぎ座の方向約8000光年の距離に位置する三重連星系を取り囲む、風車のような模様の塵の構造がとらえられた。エジプト神話に登場する巨大な蛇の姿に見えることから、「アペプ」というニックネームで呼ばれている。
連星系は、大質量星の一種である「ウォルフ・ライエ星」同士の連星と、もう一つの星から構成されている。ウォルフ・ライエ星は大質量星の一生の終期にあたり、その期間はほんの数十万年ほどしかない。アペプの中のウォルフ・ライエ星からは、その短い間に、時速1200万kmという猛烈な恒星風が吹き出している。その恒星風が連星系を取り囲む柱状の構造を形成した。
一方、塵でできている風車のような構造の旋回速度は時速200万km以下と、恒星風よりはゆっくりとしている。この違いは、連星の一つからの恒星風が方向によって速かったり遅かったりすることが原因と考えられている。
こうした様子は、ウォルフ・ライエ星が壊れそうなほど高速で自転していることを示唆するものだ。高速で自転するウォルフ・ライエ星が超新星爆発を起こすとロングガンマ線バースト(継続時間が2秒以上のガンマ線バースト)が発生すると考えられていることから、アペプはガンマ線バーストを起こす直前のウォルフ・ライエ星の連星系を見ているものという可能性がある。
「このような星系が天の川銀河内で見つかったのは初めてのことです。遠い宇宙ではなく身近なところで発見するとは思っていませんでした」(オランダ電波天文学研究所 Joseph Callinghamさん)。
〈参照〉
- ヨーロッパ南天天文台:Cosmic Serpent - ESO’s VLT captures details of an elaborate serpentine system sculpted by colliding stellar winds
- NYU:Scientists Discover New “Pinwheel” Star System
- Nature Astronomy:Anisotropic winds in Wolf-Rayet binary identify potential gamma-ray burst progenitor 論文
〈関連リンク〉
関連記事
- 2024/07/16 観測データと機械学習の組み合わせでガンマ線バーストの距離測定精度が大幅向上
- 2023/12/04 X線突発天体監視速報衛星「こよう」、打ち上げ成功
- 2023/12/01 ガンマ線と可視光線偏光の同時観測で迫る光速ジェット
- 2023/04/05 数千年に一度、史上最強のガンマ線バースト
- 2022/12/16 ガンマ線バーストの爆発エネルギーは従来予測の約4倍
- 2022/12/15 常識をくつがえすハイブリッド型のガンマ線バースト
- 2022/10/24 観測史上最強規模のガンマ線バーストが発生
- 2022/10/17 連星のダンスで生み出された17重のダストリング
- 2022/08/10 アルマ望遠鏡、ガンマ線バーストの残光をミリ波で初観測
- 2022/08/01 一見孤立したガンマ線バースト、実は遠方銀河の中にいた
- 2022/07/29 ガンマ線バーストの残り火を使って宇宙を測る
- 2021/12/02 ブラックホールから生じる「ねじれた」ガンマ線
- 2021/11/19 124億年前の星形成銀河でフッ素を検出
- 2020/12/18 134億光年彼方の銀河を同定、観測史上最遠記録を更新
- 2020/11/27 宇宙の距離を測定する最長の「ものさし」
- 2020/09/23 宇宙に塵を供給する、終末期の大質量連星
- 2020/07/17 100億光年彼方のショートガンマ線バーストの残光
- 2019/11/27 誕生直後のブラックホールから届いた過去最高エネルギーのガンマ線放射
- 2019/11/27 ガンマ線バーストの残光から超高エネルギーガンマ線を検出
- 2019/11/15 ガンマ線バーストの電波残光の偏光測定に初成功