極超新星は光速ジェットにより引き起こされる

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5億光年彼方で発生したガンマ線バーストのスペクトル解析や理論計算から、ガンマ線バーストを引き起こした極超新星に光速の30%以上もの高速成分が付随することなどが明らかになった。極超新星が光速ジェットにより起こる爆発現象であるという理論を支持する成果である。

【2019年1月24日 京都大学レスター大学アンダルシア天体物理学研究所

宇宙で最も高エネルギーの爆発現象であるガンマ線バースト(とくに継続時間が数秒以上のもの)は、太陽が100億年かけて放出するエネルギーを軽々と上回るほどの莫大なエネルギーが数秒~数十秒程度の間に放出される。そのうち一部のガンマ線バーストは、超新星を伴って現れることが知られている。そのような超新星には、高速膨張する超新星放出物質によって作られる性質が見られることから、通常の超新星の10倍以上の爆発エネルギーを持つ「極超新星」と解釈されている。

標準的なモデルでは、ここまで激しい超新星爆発を説明することができない。そのため、非常に高速で回転するなど特殊な条件を満たした星が、一生の最期に中心部でブラックホールか非常に磁場の強い中性子星を形成し、それに伴って光速に近い速度のジェットが形成されるというモデルが提唱されている。

このモデルでは、ジェットのエネルギーの大部分が星全体を吹き飛ばすこと(極超新星の発生)に使われ、一部はほぼ光速に近い速度を保ったまま星を突き抜けてガンマ線を放出すること(ガンマ線バーストの発生)が示されている。この仮説が正しければ、光速に近い速度のガンマ線バーストのジェット成分と光速の10%程度の速度を示す極超新星成分のほかに、光速の数十%程度の速度の「コクーン」(cocoon:繭)が存在すると予測されるが、これまでの極超新星の観測でコクーン成分は確認されていなかった。

ガンマ線バーストと極超新星の想像図
ガンマ線バーストと極超新星の想像図(提供:Anna Serena Esposito)

2017年12月5日、コップ座の方向でガンマ線バースト「GRB 171205A」が発生した。地球からの距離は約5億光年と、ガンマ線バーストとしては史上3番目の近さで、このような近傍ガンマ線バーストは10年に1回程度しか発生しない貴重な現象である。

京都大学の前田啓一さん、スペイン・アンダルシア天体物理学研究所のLuca Izzoさんたちの研究グループは、口径10mのスペイン・カナリア大望遠鏡と口径8mのチリ・VLT望遠鏡を用いて、可視光線波長におけるGRB 171205Aの詳細な追観測を即座に開始した。すると、ジェットとは異なる、主に可視光線で光る成分が爆発直後から存在することが確認された。

さらに、ガンマ線バースト発生の1日後には、極超新星で見られるような幅の広い吸収線が現れ始め、超新星「SN 2017iuk」と名づけられた。これまでガンマ線バーストに付随する超新星由来の成分が発見されたのは、最も早い例でも爆発の5日後であったことから、今回の観測は非常に重要な機会となる。

SN 2017iuk
コップ座の渦巻銀河に発生したGRB 171205A・SN 2017iuk(提供:カナリア大望遠鏡)

観測から、極超新星SN 2017iukの爆発最初期のスペクトルは、従来知られていた極超新星のものと全く合わないという驚くべき結果が得られた。また、観測を継続すると、1週間程度でこれまでに知られていた極超新星と変わらないスペクトルへと変化する様子も確認された。つまり、GRB 171205A・SN 2017iukがガンマ線バースト・極超新星として特別なものというわけではなく、観測された特異な性質は爆発直後に観測できたという事実によるものと考えられる。

スペクトルの時間変化を追うと、爆発直後に現れる吸収線が時間とともに波長の長い側へ移動していく様子が見られた。この特徴は通常の超新星でも見られるが、理論計算の結果から、爆発放出物の最外層に秒速10万kmにまで到達した少量の噴出物が存在すること、その内側にこれまでに極超新星で知られていたような秒速2万~4万km程度の噴出物が大量に存在していたことがわかった。

さらに、この高速成分は大量の鉄などの重い元素を含むことも明らかになった。このような重元素の塊が星を突き抜けて高速で飛び出すということは、爆発がジェットにより引き起こされ、そのジェットが激しい核反応により鉄などを生成しながら星の外層部まで到達して超高速のコクーンを形成したというシナリオを支持している。このようなコクーンから予想される爆発直後の光度曲線がSN 2017iukの初期の紫外線・可視光線での振る舞いを良く説明できることも、計算から示された。

SN 2017iukのスペクトル進化と現象の説明図
(左)極超新星SN 2017iukのスペクトルの時間変化。赤は理論計算の結果。15日時点におけるスペクトルは典型的な極超新星と類似している。2日時点の吸収線は、15日の吸収線がより短い波長に青方偏移して現れていたもの(青の矢印)として解釈できる。爆発直後の強い吸収線は、超高速成分の組成が鉄などの重い元素を大量に含んでいることで説明できる。(右)スペクトル進化の解釈。高密度の極超新星成分(青)の外側に、少量・低密度の超高速成分(赤)が存在する。2日の時点では十分に密度が高く、外側の超高速成分が吸収を起こす。その後、膨張運動により密度は減少し、内側の極超新星成分のみ見えるようになる(提供:Izzo et al. (2019) Nature、京都大学)

今回の観測は、ガンマ線バーストおよび極超新星の爆発が光速ジェットにより引き起こされることを直接的に支持する初めての成果につながった。秒速10万kmを超えるような超高速噴出物の直接的な確認は、恒星の爆発現象としてはこれまで例がなく、ガンマ線バーストと極超新星が非常に極限的な天体現象であることを物語っている。今後同様の観測が増えることで、高速ジェットを形成した天体や、ガンマ線バーストにまつわる謎に迫ることができると期待される。

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