成長中の巨大ブラックホール周辺を電波で観測

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活動銀河の一種「セイファート銀河」の電波観測から、成長途中の巨大ブラックホールの周りにあるガスが電波に影響を与える様子が初めて観測された。

【2023年7月24日 国立天文台VERA

ほとんどの銀河の中心には、質量が太陽の数百万倍から100億倍という超大質量ブラックホールが存在する。超大質量ブラックホールとその母銀河は互いに影響を及ぼしながら進化すると考えられるが、実際にどのように巨大ブラックホールが誕生し、成長するのかはわかっていない。この謎を解くには、質量がまだ小さい成長中の中心ブラックホールを調べる必要がある。

そのような条件に合う銀河の一つが、「狭輝線セイファート1型銀河(Narrow-Line Seyfert 1)」(以下 NLS1)だ。活発な超大質量ブラックホールを持つ「活動銀河」のうち、天の川銀河から比較的近く、スペクトルに特徴的な輝線が見られる銀河を「セイファート銀河」と呼ぶが、NLS1はそのセイファート銀河の一種だ。NLS1の中心には、周囲のガスを取り込んでまさに急成長しつつある、まだ質量の小さい巨大ブラックホールがあると考えられている。

このような銀河の中心部を詳しく調べるには、VLBI(Very Long Exploration Interferometer)という手法で分解能の高いデータを得られる電波観測が役に立つ。とくに、超大質量ブラックホール周辺のガスや磁場の様子を探るには「ファラデー回転」と呼ばれる量が重要な手がかりになる。

巨大ブラックホールの近くから放射される電波は、「偏波」(可視光線でいう偏光)という、特定の方向に偏った振動を持つ特徴がある。この偏波が磁場を持つガスの中を通過すると、偏波の振動方向が回転する。これがファラデー回転だ。回転の量は、通過したガスの密度や磁場の強さで変わる。活動銀河核のファラデー回転は、ブラックホールが十分に成長した銀河ではよく調べられているが、電波が弱いNLS1ではほとんど観測例がなかった。

活動銀河核のファラデー回転
活動銀河核の近くから放射される電波のイラスト。銀河中心にある急成長中のブラックホールからはジェットや円盤風が噴出している。ブラックホールの近くから放たれた電波は、周辺にある磁場を伴ったガスを通過する際に偏波面が回転する「ファラデー回転」を起こす(提供:国立天文台)

東京大学大学院理学系研究科の高村美恵子さんたちの研究チームは、NLS1の中でも地球に比較的近い6個の銀河について、国立天文台の電波望遠鏡ネットワーク「VERA」を使って中心部を詳しく観測した。高村さんたちは、新たに開発されたVERAの「広帯域・両偏波受信システム」を使い、NLS1の中心から出る微弱な偏波を高い感度で検出して、NLS1のファラデー回転を導き出すことに初めて成功した。

観測の結果、NLS1のファラデー回転はかなり回転量が大きいことがわかった。NLS1の中心ブラックホール付近にはガスが豊富に存在していて、ブラックホールのそばから放射された電波が磁場を持ったガスに大きく影響されているようだ。この結果は、成熟した超大質量ブラックホールの10~100分の1ほどしかないNLS1のブラックホールが、いずれ大きく成長し、非常に明るく輝く「クエーサー」のようになる可能性を示唆している。

観測対象のNLS1銀河
今回観測された6個の狭輝線セイファート1型銀河。それぞれ、左の画像は各銀河の可視光線画像、右の画像はVERAによる22GHz帯の電波観測で得られた銀河中心部の姿。各電波画像の中で最も明るい場所(白い部分)に巨大ブラックホールがあると考えられており、その領域から微弱な偏波が検出された(提供: 電波画像:Takamura et al.、可視光線画像:SBS 0846+513, PMN J0948+0022, 1219+044, PKS 1502+036, TXS 2116-077はSloan Digital Sky Survey, 1H 0323+342はPan-STARRS1 Survey)

「巨大ブラックホールにも、私たち人間と同じように成長の歴史があります。とくに今回観測したブラックホールは、ご飯をモリモリ食べて元気に成長する育ち盛り真っ只中の私にそっくりであることがわかりました」(高村さん)。

「大幅にパワーアップしたVERAの観測性能により、これまで謎に包まれていた若いブラックホールの姿が明らかになりつつあります。今後さらに色々なブラックホールをVERAで観測することで、ブラックホールの成長や多様性の謎に迫りたいです」(水沢VLBI観測所 秦和弘さん)。

VERAネットワーク
国立天文台が運用するVERAの各望遠鏡。岩手県奥州市水沢、鹿児島県薩摩川内市入来、沖縄県石垣市、東京都小笠原村父島の4か所に口径20mの電波望遠鏡を設置し、それらを連携してVLBI技術を用いた観測をすることで、口径2300kmの巨大望遠鏡と同じ分解能を引き出している(提供:国立天文台)

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