電波源クエーサーの観測最遠記録を更新

このエントリーをはてなブックマークに追加
強い電波を放つものとしては観測史上最遠となる約130億光年の彼方にクエーサーが見つかった。中心では超大質量ブラックホールがハイペースでガスを取り込んでいるとみられる。

【2021年3月15日 マックス・プランク天文学研究所

クエーサーは、銀河中心の超大質量ブラックホールが大量のガスを取り込む過程で輝く天体だ。宇宙で最も明るい天体の一つであり、極めて遠方からでも観測できる。あまりにも遠いため恒星のような点状にしか見えないが、同時に強い電波を発していることもあり、これがきっかけで1963年にクエーサーの第1号が発見された。クエーサーの電波源となっているのは、集まったガスの一部がブラックホールに流れ込まずに両極方向へ噴き出すジェットの部分だと考えられている。

ところが、研究が進むにつれて、強い電波を発するクエーサーは全体の10%しかないことがわかってきた。電波の強いクエーサーが少ない理由は未解明で、宇宙初期でもその割合が同じだったかも不明である。遠方天体までの距離を示す赤方偏移がz=6以上、つまり私たちから約128億光年以上離れた、誕生から10億年以内の宇宙で見つかった電波の強いクエーサーは、これまで3個しかない。

独・マックス・プランク天文学研究所のEduardo Bañadosさんたちの研究チームは、ヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡VLTやマゼラン望遠鏡をはじめとした世界各地の望遠鏡を使い、新たに電波の強いクエーサー「PSO J172.3556+18.7734」(以降、P172+18)をしし座の方向に発見した。同クエーサーの赤方偏移は6.82(距離約130億光年)で、宇宙がまだ7億8000万歳だったころの天体だ。電波の強いクエーサーとして、最遠記録をおよそ1億光年更新した。

P172+18のようなクエーサーの想像図
P172+18のようなクエーサーの想像図。銀河の中心には周囲のガスを引き込む超大質量ブラックホールが存在し、その周りに降着円盤が形成されている。円盤からブラックホールへ落ち込む物質が高温となり、強い紫外線を放射する。また、ねじれた磁場によって双極ジェットが形成され、これが強い電波放射源となっている(提供:Kaley Brauer, MIT)

P172+18へエネルギーを供給しているブラックホールの質量は太陽の約3億倍と見積もられ、天の川銀河中心のブラックホールの約70倍もある。引き寄せられたガスはこの超大質量ブラックホールの周囲で回転し、摩擦によって超高温となる。ここから1秒間に放出されるエネルギーは天の川銀河全体の580倍にも達する。

また、電波源のジェットは、流入するガスの中でたまったエネルギーを放出する役割も果たしている。このエネルギーの抜き取りにより、ガスが中心のブラックホールへと流入するのを促進している。落下するガスによって、P172+18の超大質量ブラックホールは観測史上最速のペースで成長しているという。

強い電波のクエーサーを超遠方で見つけることは、宇宙初期にブラックホールがどのように成長したかを知る上で重要だ。さらに、強い電波源が遠方にあることは、そこと地球の間にある物質を研究する上でも意義がある。宇宙で最初の銀河がどのように誕生して成長したのかは現代天文学における重要なテーマであり、中性水素の雲が集まって銀河になったという仮説があるが、その中性水素が電波源の手前にあれば、検出が可能となるのだ。

宇宙第一世代の天体を探る鍵となる、強い電波のクエーサーだが、研究チームではP172+18より遠いものも含め、まだまだ見つかるだろうと期待している。

関連記事