広がった赤外線放射が見られる中性子星
【2018年9月21日 HubbleSite/NASA】
大質量星が超新星爆発を起こして一生を終えた後に残される、超高密度の天体である中性子星は、高速で自転することで周期的に明滅して見えることからパルサーとも呼ばれる。パルサーは一般的に、電波や、高エネルギーのX線などで観測、研究されている。
米・ペンシルバニア州立大学のBettina Posseltさんたちの研究チームはハッブル宇宙望遠鏡を用いて、とも座の方向約800光年彼方に位置する11秒周期のパルサー「RX J0806.4-4123」を赤外線の波長で観測した。
すると、パルサーの周囲に300億kmにわたって広がる赤外線放射が検出された。同じ領域からのX線や電波は観測されておらず、このパルサーは、周囲から赤外線だけが検出された初めての観測例となった。
広がった赤外線が検出された理由として2つの可能性が考えられている。1つ目は、パルサーの周囲を塵の円盤が取り囲んでいるというものだ。
「中性子星の元となった大質量星の物質が、超新星爆発後に中性子星の周囲に戻ってきて集まってできた『フォールバック・ディスク』という円盤が存在し、それが赤外線で見えているのかもしれません。フォールバック・ディスクであることが確認されれば、中性子星の進化に対する理解が変わることになります」(Posseltさん)。
2つ目の可能性は、赤外線はパルサー星雲から放射されているというものだ。「強い磁場を持ち高速自転する中性子星が生み出す電場内で粒子が加速されると『パルサー風』が発生します。中性子星が音速をはるかに超える速度で星間物質内を通過する際、星間物質とパルサー風との相互作用でパルサー星雲ができます。通常パルサー星雲はX線の波長で観測されますから、赤外線のみを放射するパルサー星雲は、とても変わっていてエキサイティングな天体です」(Posseltさん)。
NASAが2021年に打ち上げを予定しているジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を使った観測によって、この赤外線を放射する領域がさらに詳しく調べられれば、中性子星の進化の理解がさらに進むと期待される。
〈参照〉
- HubbleSite:Hubble Uncovers Never-Before-Seen Features Around a Neutron Star
- The Astrophysical Journal:Discovery of Extended Infrared Emission around the Neutron Star RXJ0806.4-4123 論文
〈関連リンク〉
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