スパコンで探る、謎の超高輝度X線パルサーの正体
【2016年9月14日 CfCA】
宇宙には「超高輝度X線源」と呼ばれる、極めて明るく光る謎のX線天体が何百個も発見されており、その正体は多量のガスを吸い込んで光るブラックホールとする説が最も有力とみられている。
ところが、2014年にNASAのX線観測衛星「NuSTAR(ニュースター)」が、超高輝度X線源の一つ「M82 X-2」から規則正しい周期で発せられるX線パルスを検出した。ブラックホールはパルスを出さないので、このX線パルサー(明滅天体)の正体はブラックホールではないと考えられる。
一方で、直径10kmほどの高密度天体である中性子星はパルサーとして数多く見つかっているので、天体の正体は中性子星であると考えることもできるが、その場合には強いX線放射を発するメカニズムが謎として残る。どのようにして固い表面をもつ中性子星がガスを多量に取り込み明るいパルスを放射するのか、世界中の研究者が現象解明に取り組んだ。
国立天文台の川島朋尚さんたちの研究チームは、天文学専用のスーパーコンピュータ「アテルイ」を使って中性子星へのガス降着シミュレーションを行い、新しいパルサーのモデルを提唱した。
従来のパルサーモデルは、自転する中性子星の両極方向に光のビームが出るというものだが(古典的な宇宙灯台モデル)、今回のシミュレーションで検証されたのは、「降着柱」の側面が明るく光るというモデルだ。
降着柱とは中性子星の磁場の極に形成されたガスの柱のことで、この中をガスが落下すると中性子星の表面付近で衝撃波が発生し、莫大な光が生み出されることが確かめられた。さらに、光が柱の側面から抜けることで継続的にガス降着が可能になること、側面から抜ける光が超高輝度X線源の光度に匹敵するほど明るいことも示された。似たようなアイディアが提唱されたことはあったものの、側面が明るく光ることが可能であると実際に多次元シミュレーションで確かめられたのは今回が初めてのことである。
「今後は、新しい宇宙灯台モデルの詳細な観測的特徴を明らかにするために、強い磁場中での放射とガスの相互作用に関する補正や一般相対論的な補正を加えたより精緻な計算を行い、超高輝度X線源の中心天体の謎にさらに迫っていきたいと思います」(川島さん)。
〈参照〉
- CfCA: 横顔が輝く宇宙灯台:謎の超高輝度X線パルサーの正体をスパコンがあばく
- PASJ: A radiation-hydrodynamics model of accretion columns for ultra-luminous X-ray pulsars 論文
〈関連リンク〉
- 国立天文台 天文シミュレーションプロジェクト(CfCA): http://www.cfca.nao.ac.jp/
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