わずか240歳の中性子星
【2020年6月23日 NASA JPL/ヨーロッパ宇宙機関】
今年3月12日、NASAのガンマ線バースト観測衛星「ニール・ゲーレルス・スウィフト」がいて座の方向で強いX線のバーストをとらえた。ヨーロッパ宇宙機関(ESA)のX線衛星「XMM-Newton」やNASAの「NuSTAR」などによる追観測から、この天体「Swift J1818.0-1607(以下、Swift J1818)」のX線放射に1.36秒周期の変動が見られることがわかった。さらに地上の電波望遠鏡による追観測で、電波でもX線と同じ周期のパルスを放射していることが明らかになり、この天体がパルサーであることが判明した。
パルサーの正体は中性子星と呼ばれる天体で、太陽の8倍より重い恒星が一生の最期に超新星爆発を起こした後に残る、超高密度の天体である。パルサーは高速で自転しながら強い電磁波を放射するため、その自転周期に同期した電磁波のパルスが観測される。追観測のデータから、Swift J1818は太陽の約2倍の質量を持ち、直径は約25kmで、地球からの距離は約1万6000光年であることがわかった。
さらに、Swift J1818は通常の中性子星よりも磁場が数千倍も強い「マグネター」と呼ばれるタイプの天体であることも明らかになった。マグネターは宇宙に存在する天体の中で最も強い磁場を持ち、その強さは人類が作り出した最強の磁石をさらに1億倍も上回る。
しかも、Swift J1818はこれまでに見つかっているマグネターの中で最も年齢が若いことも明らかになった。パルサーは自転をエネルギー源にして強い電磁波を生み出し、宇宙空間に放射しているため、その自転周期はだんだん遅くなっていく。この性質を利用し、現在のパルス周期とその遅れの度合いを測定できれば、パルサーが誕生してからどのくらい経っているか(パルサーの特性年齢と呼ぶ)を大まかに見積もることができる。
この方法でSwift J1818の特性年齢を見積もったところ、約240年という結果になった。つまり、Swift J1818はアメリカ合衆国建国やフランス革命、日本では天明の大飢饉や寛政の改革などがあった時代に起こった、天文学的にはつい最近とも言える超新星爆発の名残だということになる。ただし、天の川銀河の中で起こった超新星のうち、歴史上記録が残っているのは1604年の「ケプラーの超新星」(SN 1604、距離約2万光年)が最後で、Swift J1818を作り出した超新星は記録されていない。
中性子星はこれまでに約3000個見つかっているが、そのうちマグネターは31個しかない。Swift J1818はこの中で最も若いマグネターである。マグネターのような極限状態は地上の実験では再現できないため、こうした天体は超高密度・超強磁場といった極端な条件下の物理学を理解するための天然の実験室として、非常に重要なものとなる。
「この天体は私たちが観測したことのない、マグネターが生まれたばかりの初期段階を見せてくれています。こうした天体の形成過程を理解できれば、これまで見つかっているマグネターの個数と中性子星の個数がなぜこれほどかけ離れているのか、といった疑問も解けるようになるでしょう」(スペイン・宇宙科学研究所 Nanda Reaさん)。
〈参照〉
- NASA JPL:A Cosmic Baby Is Discovered, and It's Brilliant
- ESA:XMM-Newton spies youngest baby pulsar ever discovered
- The Astrophysical Journal Letters:A Very Young Radio-loud Magnetar 論文
〈関連リンク〉
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