太陽の数兆倍の磁場を持つパルサーの正体
【2017年1月11日 NASA JPL】
りゅうこつ座とケンタウルス座の境界に位置するPSR J1119-6127(以降J1119)は2000年に発見された天体で、従来は電波パルサーだと考えられてきた。パルサーとは超新星爆発の後に残された非常に高密度の天体である中性子星の一種で、高速の自転に伴って規則正しい電波放射のパルスが観測される。
2016年7月、静かな天体だと思われてきたJ1119に、2度のX線バースト(突発増光)が観測された。こうした現象は、X線やガンマ線の波長で激しい高エネルギーのアウトバーストを起こす、マグネターと呼ばれる超強力な磁場を持つ天体に見られるものだ。
1970年代からパルサーとマグネターは完全に別種の天体として扱われてきたが、ここ10年ほどの間に、これらは一つの天体の異なる進化段階である可能性を示す証拠が出てきた。もしかするとJ1119はパルサーとマグネターとの中間に位置する天体で、いずれかへと移行する段階にあるのかもしれない。
「J1119は、ある時にはパルサー、またあるときにはマグネターという2つの顔を持っています。この天体を調べることで、パルサーのメカニズムに潜む何かがわかるかもしれません」(NASAジェット推進研究所 Walid Majidさん)。
J1119のX線バーストは、天体の自転によって超強力な磁場がねじれたことで生じたと考えられる。J1119の磁場は太陽の数兆倍もあり、これは既知のパルサーの中で最も強いものだ。磁場のねじれにより中性子星の外層が破壊され、「グリッチ」と呼ばれる自転の急激な変化を起こす。このグリッチはNASAの天文衛星NuSTARによって観測されている。
また、追跡観測の結果、X線バーストから2週間ほどでJ1119は再び静穏になり通常のパルサーに戻ったようにみえることも確認された。
本当にパルサーとマグネターが一つの天体の進化段階だとすると、一体どちらが先だったのかという疑問も残る。J1119のような天体はまずマグネターから始まり、徐々にX線やガンマ線のアウトバーストを起こさなくなるとも考えられるし、パルサーとして誕生した天体に磁場が発生してアウトバーストが始まるという説もある。こうした天体はありふれているのか、進化の過程はどうなっているのか、今後の発見と継続観測で謎が解き明かされていくだろう。
〈参照〉
- NASA JPL: The Case of the 'Missing Link' Neutron Star
- The Astrophysical Journal Letters: POST-OUTBURST RADIO OBSERVATIONS OF THE HIGH MAGNETIC FIELD PULSAR PSR J1119-6127 論文
〈関連リンク〉
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