編集後記


本誌各号の編集後記を掲載。

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■2004年6月

 プラネタリウム界の鬼才、山田卓先生が星の世界へ旅立たれた。
昨年9月大腸がんのため入院。一度は回復され昨年末退院されたものの、体調を崩され再度入院。そして3月7日、70歳の誕生日を目前にして、穏やかに旅立たれた。

 山田卓先生といえば、1962年の名古屋市科学館オープンから、退官される1992年までの30年間、プラネタリウムの斬新な解説をされるとともに、天文普及に尽力され、名古屋市科学館のプラネタリウム入館者数を世界一に導いた方であることは言うまでもない。しかしそれはすべてではない。実は数えきれないほどの後継者を育てられた真の教育者でもある。おそらく山田先生の影響を受けたプラネタリウム関係者、天文ボランティア、アマチュア天文家は、何百人いや何千人に上るだろう。

 山田先生は、実に人を育てるのが上手だ。私が今こうして、山田先生の追悼文を書かせていただけるのも、すべて山田先生のおかげといっても過言ではないだろう。私が山田先生と出会ったのは、大学3年生のとき。そのころの私は、人前で話すのも書くことも苦手な、無口でネクラの天文青年だった。それが山田先生の「こんど中学生対象に天文研修をするのだが、手伝ってくれないか」という言葉がきっかけとなり、30年ものお付き合いが始まった。今、目を閉じると、この30年間に起こった出来事が、涙とともに次々よみがえってくる。

 口下手な私に何度も講座でしゃべるチャンスを与えてくれたこと。書いた原稿に何度も赤を入れてくれたこと。あまりのできの悪さにきっとあきれただろうに、声を荒げもせず根気よく付き合ってくださった。また、山田先生の名著「星座博物館」執筆されるにあたっては、私のようなものにも「手伝ってほしい」と声をかけていただいたこともあった。

 そして1986年から始まった、山田先生企画による当時中部地区では最大の星のイベント「スターウィークin ONTAKE」。このときは、山田先生に師事するたくさんのボランティアが集結して、失敗を繰り返しながらも一生懸命山田先生についていったことを思い出す。今思うと山田先生は、一人一人の本人も気がついていない、内に秘めたる可能性を実にたくみに引き出すマジシャンのような方だったのである。ただただ、私たちは山田先生の背中を必死で追いかけることしかできなかったような気がする。

 1992年退官された後もこのスタンスに変わりはなかった。住まいを名古屋から三重県の志摩に移されてからは、志摩町を活性化するために、町の人材を集めプロジェクトチームを作り、星と音楽のイベントを企画・実行に移された。また、低迷していたプラネタリウム界に喝を入れるべく、次々に新しい企画を打ち出された。そのときの想いが次の文にすべてこめられている。

 「プラネタリウムは、天文フアンと称するマニアを育てるところでもなければ、子どもに媚びをうるところでもありません。大人、子どもにかかわらず、理系、文系にもかかわらず、人間にとってだれもが生きるのに必要な「宇宙」という概念について考えさせてくれるところでありたいと思うのです」

 その第1弾が、自ら顧問を務められていた四日市市立博物館での「超・プラネタリウム(Planetarium after planetarium)大人のための実験プラネタリウム」(星ナビ2001年9月号参照)。そして第2弾は、三重県松阪市にある三重県立こどもの城プラネタリウムで2002年5月から始まった「プラネタリウム倶楽部」(星ナビ2002年8月号参照)。

 どちらの企画も毎回ほぼ満席という盛況ぶりだったことが、山田先生の妥協を許さない企画への取り組みが生んだ結果だった。そして、山田先生の思想は、四日市市立博物館では「宇宙塾」となってスタッフによって引き継がれている。また、山田先生が病に倒れるまで行われた三重こどもの城の「プラネタリウム倶楽部」は、それ以降、山田先生に育てられた弟子(あえてそう呼びたい)たちによって続けられることになった。

 私にとっての山田先生は、「卓さん」と名前で呼ばせていただくほどの身近な存在であり、まさか、いなくなるなんて考えもしなかった。私の人生に大きなインパクト与えてくれたすばらしい師、山田先生。星に旅立たれた今、改めて山田先生の偉大さを感じるとともに、師の遺志を少しでも継がねばと肝に命じている。

 「ありがとうございました。心からご冥福をお祈り申し上げます」

 最後に、4月15日に「文部科学大臣賞」を受賞されたことを付け加えさせていただく。

浅田英夫

故・山田 卓先生

故・山田 卓先生

 

あさだ考房・浅田英夫氏より寄稿された追悼文を緊急掲載しました。ご冥福をお祈りいたします。(編集部一同)



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